K邸2019

 

自然災害による唐突な営みの破壊を、

私達は阪神大震災で改めて痛感し、以降強く意識するようになった。

そして、嫌というほどその力の強大さを見せつけられてきた。

 

関西に大きな被害をもたらした一昨年の平成30年の台風21号。

関空橋にタンカーが激突し、橋が破損、片側の車線が通行できなくなったのが記憶に新しいあの台風です。

我が家では大きな被害はなかったものの、停電が丸二日ぐらい続き不便な思いをしました。

また、実家の木造住宅は、この台風の2カ月ぐらい前に起こった大阪北部地震とのダブルパンチで、

屋根や壁にそこそこの被害を受け、職人不足もあって修理が完了するまでに相当に時間を要しました。

そしてこのK邸も、この台風の影響と人災が重なり、意に反して建て替えることになった住宅です。

 

当初、そんなお話を聞いたのがこの台風の少しあと。

その後、それに対する補償やその他のいろんなことの処理に時間がかかって、

さぁ!…と声がかかったのが昨年の9月の下旬。

そこから土地がらみの手続きや確認申請の前の、

景観、風致などの手続きを終えたのが今年の3月の終わり。

災害による建て替えによる一切の緩和や酌量なく、

腹を立て立て、でもぐっとこらえ、

抑えきれないときには時々反論を繰り返しながら役所と渡り合い、

ようやく納めることが出来ました。
その後の担当者との雑談では
、これでも相当早い方…と言われて複雑な心境でした。

 

そういえば、昔はあちこちから聞こえてきた役所での口論も、

最近はすっかりなくなったな…と思っていたのですが、

ここの窓口では、そんななつかしい光景が時々見受けられたのが、

後になってみると何となく理解できるような…。

 

風致・景観の厳しい地域だったのですが、求められたのが数寄屋風の外観。

その基準の曖昧さとシビアさのアンバランスに少々の文句は言わせてもらいましたが、

私の考え方をそう大きく方向転換する必要がなかったのは幸いでした。

 

それと、今回の建て替えの原因となった裏山の対策。

土砂災害特別警戒区域に指定されていて対策が必要でしたが、

法的な対応の詳細を聞くために確認検査機関にアクセスすると、

めったにない敷地の条件にはっきりとした回答をくれるところ少なく、探し廻ることになりました。

対策については、建て替えの建物の規模が元の建物に比べるとかなり小さくなったことで、

比較的簡易な方法ですすめることが出来、事前協議を始めてからはすんなりと進みましたが、

 

全ての申請を終えたのは、被害から数えると一年半が経過したあとでした。

 

着工が2020年4月。

世の中はコロナで大変な時期でしたが、

本来なら観光客で工事に支障が出て当たり前のロケーションでしたが、

観光客が少なかったことが幸いし、工事も予定通り進めることが出来ました。

 

建物はクライアントが考えた間取りに少し手を入れて、

小さいながらも広がりを感じることが出来る、伝統的な日本の住宅を踏襲したシンプルなプラン。
風致・景観による指導の数寄屋風と、元々のシンプルな考えに若干の捻りを加えた外観。
全体的にいたってシンプルに構成しながら、

雑多な線を取り除き、必要な繊細な線を残した、繊細さと落ち着きが感じられる住宅となりました。

 

掘りごたつに座り込むと、

その落ち着きと窓から見える木々の揺らぎに癒され、

ついほっこりして、時間が経つのを忘れてしまいます。

そんな感覚が、日本人が時代を重ねて培い人間の営みとともに育て上げた、

日本の住宅の根本的な性能であり、

時代を超越して感じられる安らぎの一つであることを思い出させてくれます。

 

 

施工:京町家工房

 


現調・測量


基礎工事


建て方


造作・仕上


竣工

竣工時写真:建築写真家 田岡信樹