この台所の奥は、お母さんの寝室。料理好きな
お母さんが、それが一番便利がいいから……と。
そして、その更に奥には、「いつも囲まれてい
たいから……」と、壁一面に本が並ぶ間口は狭い
が、天井が高い本のための部屋。
そう、お母さんの寝室は、台所と本の部屋とし
か繋がっていないんです。
普通……という言葉で済ませてしまう便利さとは
かけ離れた、お母さんによる、お母さんのため
の、お母さんが便利だと思うプランです。
ご自分のライフスタイルと新しいお家での新し
い生活がちゃんとリンクし、頭の中でしっかり
と描けているんだと思います。
でも、ご要望はぶつけるけど、「私には、いい
のか悪いのかわからないから…」と、こっちの
考えを際限なく引き出そうとするスタンスとそ
れを受け入れるだけの懐の大きさは、完璧以外
の何物でもありません。
お母さんによって引き出された数々のプランニ
ングは、やがて一つに収束し、お母さんにとっ
てとても満足がいく、普通……という物差しで測
ることのできない結果にたどり着きました。
そして、この家のもうひとつの特徴は、長いス
ロープのアプローチ。
足の調子が気になるお母さんにとって、段差が
最大の敵……と、直感的に前面道路との段差を
長いスロープで解消する案が浮かび、作成して
提案。
……が、なぜかこのスロープ案は即刻却下。
細長いスロープに違和感があったのか?
他になにかイメージを持っておられたのか?
直感的に浮かんだ案というのは、しっくりくる
から直感で浮かぶわけで、なかなかその強い印
象を吹っ切るのは難しいんですよね。
こういう細長い敷地の場合は、奥行き方向の真
ん中ぐらいから建物に入らないと、廊下が増え
て無駄だらけになるので、長いアプローチはそ
のままに、途中で階段をつけることにしかなら
ないので、尚更。
とはいえ、却下された以上は、考え直すしかな
く、スロープ案に後ろ髪をひかれながらも、階
段案を考え始めたところに、
御子息と相談したら、「スロープ案がおもしろ
い!」ということになったので、スロープ案で
進めてください……というご連絡が届いて、スロ
ープ案が奇跡の復活。
こうして採用された長いスロープのアプローチ
が、中のこだわりのプランと共鳴してはじめて、
この建物の良さが引き立ってくるのです。
アーキスタジオ 哲
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